第2章 買い出し
領収書を受け取りタクシーを降りると高まった気持ちが不思議と収まる。
テニスコートに近づくと景吾のファンの子達が目ざとく振り返った。
「「「跡部様ぁ〜っ!!」」」
ああ、今日もにぎやかでいらっしゃいますこと。
「跡部様っ、今日はまだ練習に出ていらしゃっらないから、心配しましたのよ」
本物なのか解らない巨乳を揺らし、タレ目の美人が走り寄る。
「まぁ、私はずっと跡部様を探しておりましたのよ、どこに行ってらしたの?」
巻き毛のロリっ子が瞳をうるうるさせている。
「皆様はしたないわ、跡部様は部活の最中よ」
知的な美人が声を上げる。
「うるせぇぞ、お前ら、練習の邪魔だ、騒ぐなら他所へ行け」
景吾の一喝で、選りすぐりの美少女達は「はぁ〜い」と良いお返事をして下がった。
後に続いて歩くとクスクスと笑い声。「なんですのあの眼鏡の方」「まぁ、貴方知らないの?マネージャーよ、正レギュラーの」「あんな方でもマネージャーになれるのね」私の噂話が聞こえる。もう少し小さい声で話さないと、品がないって大好きな『跡部様』に言われちゃうよ?
女は美醜に敏感だ。
特に氷帝学園の様なお金持ちの多い学校では幼い頃に、親の判断で若いうちから顔にメスを入れてしまう人も多い。
お金って便利だ。
幸い私の顔は両親から貰い受けたものだけど、私は醜くないから、醜いひとの気持ちは分からない。
正レギュラーの練習するコートまで行くと、若が立っていた。
「日吉、お疲れ」
「ああ、逢崎か、お疲れさん」
「ん、靴紐解けてるよ」
屈んで結び直す。輪の部分を二重にして解けにくいように結んだ。
「ああ、ありがとな」
「今日の具合はどう?」
「問題ない、あ」
「うん?」
「少し、ふくらはぎに違和感」
「ああ、昨日のメニューのせいね。下半強化メニューだったから」
「そうなのか。気付かなかった」
「うん、軽い筋肉痛だと思う。一応テーピングするよ、座ってくれる?」
「ああ」
触って確かめ、筋に沿ってテープを巻く。
「よし、おっけーだよ、行ってよし!」
榊監督を真似てぴっと指を出すと若が「ふっ」と少しだけ微笑んだ。
「あ、日吉笑った」
「笑ってない!」
「笑った方がカッコイイよ?」
「うるさい」
「ほら次、若の番!」
あ、名前で呼んじゃった。