第2章 買い出し
少し赤い顔をした日吉は私の頭をポンと撫でてコートに入る。
入れ替わりで出てきた忍足先輩と目が合った。
「お疲れさまです」
「おう、お帰り」
「あの、クリームたい焼き、ちゃんと忍足先輩の名前書いて、冷蔵庫入れておきました」
「おお、おおきにな、部活後の楽しみが出来たわ」
「本当に申し訳ありませんでした」
食べたのは景吾です。言わないけど。
「んな固い謝り方せんでもそんな怒ってへんで?」
忍足先輩はまた私の頭をポンと撫でる。
身長差からなのか労られているのか、みんな同じ様に頭を撫でるから、このままでは私の身長が縮みそうだ。
「ありがとうございます、あ、ドリンクどーぞ」
「おおきに」
ボトルを手に取ると忍足先輩は休憩に行ってしまった。
「オラァ!若!反応おせぇぞ!」
聞き慣れた声に耳を傾けると、跡部先輩が楽しそうな表情で日吉にノックの球出しをしていた。
若はよく食らいついている。
重心や癖、今日の状態を細かにノートに書き込むと、もうすぐノートが終わることに気付いた。
若のノート、買い足さなきゃ。
黒地にゴールドのラインが入った派手なノートに持ち替え、王様のデータも書き込む。
今日は調子が良さそう。
部室でしてしまった行為に反省したけれど、調子が良いなら、まぁ…いいか…。
時々不条理なことを言われてもなんとなく許してしまう。
彼にはそんな魅力がある。
景吾。
心の中で呼ぶと、景吾と目が合った。
「あぶねぇ!!」
景吾の声に、若が驚いて振り返る姿を目に映したところで意識が遠のいた。