第2章 買い出し
大きな温かい手は私の指先を撫で、形を確かめるように愛撫する。
手を引かれ甲にキスを落とされ、甘い気持ちがこぼれ落ちるのを感じた。
景吾は真っ直ぐ私を見つめて微笑む。
瞳が少し潤んで景吾の笑顔が揺れる。好き。
景吾に触れられた箇所は熱を持って私を侵食していく。
手から、身体、瞳に。
何にも屈しない、強い貴方。自由な人。
「あんまりカワイイ顔すんな。また我慢出来なくなる」
にや、と景吾が笑う。
私だって、もうこんなに熱い。
手を握ったままタクシーが学園内に入ったけど、私は何も言わなかった。
付き合っていることが学校で知られてしまったら、景吾に迷惑がかかるから、言いたくない。
景吾は気にするな、なんとかなる、なんて言うけど、私に構う暇があるならもっとテニスをして欲しい。
きっと口に出したら、そんなことで練習の妨げになるか、遠慮すんなとか怒られそうだから言わない。
些細なことでも足を引っ張りたくない。
この偉そうで自由で、尊大な王様の隣を、同じ方向を見て歩きたい。
だから守るなんて、言わないで。一緒に歩きたい。
握られた手を握り返すと、また景吾が微笑む。
溺れていくみたい。
水に溺れていくのと同じ。呼吸が上手に出来なくなって、光だけを見つめて沈んでいく。
これ以上好きになったら、どうなってしまうんだろう。