第1章 思い出したくないこと *秀吉視点*
その時を思い出していると
「秀吉さん…」
杏の呼ぶ声で我に返り正気を取り戻す。
顔を見ると哀れみの目を向けられていた…。
思わず、
「…杏、そんな目でみるんじゃない」
同情はよしてくれ
そんなことを思いながら俺は杏を見据える。
変わらない杏の様子を見て、俺はいたたまれず顔を歪めた。
「とにかく、光秀の食事は杏に任せた。後…」
「後…?」
「……光秀の天下飯には気を付けろ」
最後の言葉は、弱々しい声色になった。
我ながら情けない…。
そんな俺の言葉から
何かを察した杏はただただ頷いていた。
何も聞かないでくれたことに感謝する。
「用件はこれだけだ。…何か困ったことがあったら定期的に送る遣いにちゃんと言えよ?」
「うんっ」
「…気を付けて行ってこい」
元気よく笑顔で答える杏はどうやら癒し効果があるみたいだな。
俺は顔をほころばせながら杏の頭を撫でた後、部屋を後にした。
杏の無事を祈りながら―――――
* END *