第5章 M×A for MJbirthday
A side
夢を見てた。
ふわふわして、掴みどころのない夢。
だけど、幸せだった。
今までで1番穏やかで、ずっと見ていたいような夢だった。
夢の中で、何かいい匂いが漂った。
…松本先生?
松本先生が通ったあとの香りがする。
夢のどこか遠くの方で、低めの、落ち着く声がする。
俺の名前を呼んでるんだ。
愛おしそうに、
だけどどこか苦しそうに。
もう少しで手が届きそうだって時、どこかで窓ガラスの割れる音がして飛び起きた。
それだけでも驚いたのに、
「わあっ!!えっ…先生っ…」
よく知ってる、濃い顔立ちの先生がいた。
ほんっとに目の前。
息のかかる距離に、先生の顔があった。
俺よりも驚いた、というか少し悲しさも含んだ顔をしてる。
「あ、すいません!俺、寝ちゃってて!」
呆れられたと思った。
俺、最悪な生徒だ。
予習はしない、提出課題も出さない、夏休みに補習だし、その上寝てる。
「本当にすみません!」
慌てて立ち上がって、頭を下げた。
こんなの、慣れたことだ。
だけど、こんなことに慣れてる自分が本当に嫌だった。
必死だった。
これ以上、呆れられたくないって。嫌われたくないって。
頭を下げながら分かったことがある。
俺はたぶん…というか絶対に、松本先生が好きだ。
よりによって、こんな時に気がつく。
頭下げたら脳にまで血が巡ったのかも、なんて。
頭は上げたまま。
松本先生の顔なんて、とても見られない。
怖かった。
呆れられた顔を見るのが。
「はぁー…。」
斜め上から聞こえるため息。
もう終わったと思った。
この恋は、気が付いて5秒で終わっちゃうんだ。