第5章 M×A for MJbirthday
A side
普段はきちんと守る信号も、今日ばかりはごめんなさいと心の中で謝って、無視して突っ切ってる。
「やっばいよー…。」
自転車で坂を下って、バイト先へと急ぐ。
風を切るのを感じる余裕なんて、微塵もない。
今の地点で、もう遅刻は確定だけど、急ぐ他なかった。
深く考えると体が重くなるのは分かってるから、とにかく急ぐことだけを考えた。
「すいません!」
「何やってんだよ!どんだけ遅れてんだ!この時間は忙しいってのに!」
「本当にすいません!」
遅刻した俺に待っていたのは、ひどいお叱りの声。
まぁこんなに遅刻してるんだし、当たり前のこと。
想定内だよ、想定内。
だけど…。
どうしても心に余裕がない。
気を抜いたら涙が出そうで、ただただ頭を下げて、平謝りをした。
「これだから嫌だったんだよ、俺は。高校生のバイトを雇うなんて…。」
頭の上から、ため息混じりの声が聞こえてくる。
俺だって、好きでバイトをしてる訳じゃない。
バイトがなければ、高校生らしく部活して、友達と遊んてま…。漫画みたいな青春が出来てたんだ。
補習授業なんてせずに、夏休みを謳歌できたんだ。
「おい、聞いてんのか!」
「はい、すいません。
以後気をつけます!」
俺だって…。
夜遅くまでこき使われて働いて、クタクタになって1人の家に帰る。
化学の課題なんて、頭の片隅にもなかった。