第20章 蕎麦屋と掃除*
『てか、よく怒られませんね。実家とはいえ、アイドルなのに蕎麦屋のお手伝いなんかして。』
「いいや、クソ親父にはいつも怒られてる。言っただろ?母親の実家の手伝いだって。俺のところ離婚してんだ。」
え、そんなさらっと。
てか、アイドルの人達、私に個人情報流しすぎでは?
気のせいか?
「実の子供の事を自分の会社が大きくなる為の道具と思ってるひでぇクソ親父なんだよ。離婚して当然だ。」
『八乙女さんはお父さんの事嫌いなんですか?』
「あぁ、大っ嫌いだね。」
おぉ!
大嫌いとまで言うか……。
ふむ。
「どうした?」
『いや、大嫌いと言えるなら幸せだと。』
「は?お前、何言って…!?」
『八乙女さんもまだまだ子供ですね!お父さんが嫌いだからってそんな反抗的になっちゃダメですよ!ちゃんと話合わなきゃダメです!』
「お前は親父の事を知らないかr…『失ってからじゃ遅いんですよ。嫌いも好きも言いたい事全部言えなくなるんですよ。』
「お前、まさか………「あれ?もう着いてたのか?」
二人同時に声の方に振り返ってみれば、そこには大和さんと三月君がコンビニ袋をぶら下げながら立っていた。
「、わりぃ!その蕎麦頼んだの俺らなんだわ!」
『でしょうね、後で金返せ。』
「「はーい」」
『それじゃ蕎麦がのびちゃうと不味いし、中に入りますか!』
「あれ?お前さん蕎麦屋となんか話してたんじゃないの?」
『ううん!もう終わったから!それじゃ山村さんお蕎麦ご馳走さまです!』
「あっ、いえ、またよろしくお願いします!それじゃ、器はいつも通り外へ出しといてください。それじゃ。」
寮の中に入っていく三人。
それを見送りながら八乙女は彼女の事を考える。
―大嫌いと言えるなら幸せだ―
―失ってからじゃ遅い―
まぁ。言葉の通りだろうな。
最初は口が悪くて、強気で男相手でも平気で喧嘩を売ってくる変な女だと思ってたが……
だけど、アイツは強くならなきゃいけない環境で育ったから、あぁなのか。
「はー、またやっちまった。」
帰り道、次会うときまでに、彼女への謝罪文を考える蕎麦屋であった。
そして彼女の方はそんな事などまったく気にしてなく、蕎麦屋の山村とアイドルの八乙女楽はどう見ても同一人物なのに、なぜみんな気づかないのか頭を悩ませていたという。