第14章 大神と掃除*
「……ん。……あ、えっ!?しまった!寝ちゃったよ!今何時だ!?」
『今は丁度17時ですよ。』
え?
俺しかいないはずの事務所から知らない女性の声。
ソファーから起き上がってみれば、見慣れない清掃員さんが窓を拭いていた。
あぁ。そういえば、今日はいつもの清掃員の方じゃなく、寮の方からお手伝いさんが来てくれると一昨日社長が言っていた。
「すみません…。ずっと徹夜続きで寝落ちしてしまったみたいで。」
『いえいえ、いいですよ。よく眠れましたか?』
「えぇ、お陰さまで。ありがとうございます。」
よくみれば掃除機は出されておらず、彼女が使っているのはホウキとちりとり、それから雑巾だ。
俺に気を使って掃除してくれた事がよくわかる。
もしかして
「君が神崎さんなのかな?」
『私そんなに悪名高いですか。』
どうやら当たりみたいだ。
「全然悪名なんて高くないよ。ただ、みんな面白い子って言ってるだけだよ。」
『別に面白い事なんてひとつもやっていませんが。あっ、そうだ!これ!』
彼女が差し出してきたのは、いくつもの電話番号と名前が書かれたメモで。
『貴方が寝ていた時にかかってきた電話です。本当はとろうか、迷ったんですけど、あまりにうるさかったんで出ました。多分芸能関係者の方だと思いますが、とりあえず、私はわからなかったので、一応担当のものが帰ってきたら折り返し連絡させますと言ってありますので、後で適当に電話してあげてください。』
「えっ……あ、ありがとう!助かったよ!」
僕は驚いた。
普通ならわけのわからない電話なんてとれるはずないし、ましてや、事細かく内容をメモしてるなんてありえない。
『じゃあ、私は掃除も終わったんで帰ります!』
「えっ、もうそんな時間?」
『えぇ、もう17時半です!私は残業はしないので!それじゃ、お疲れ様でした!ええっと……』
「俺は大神だよ。ほとんど事務所にいるからまた掃除に来てね。今度はお茶でも出すよ。」
『はい!それじゃ、大神さんお疲れ様でした!』
彼女を見送り、僕は手元にあるメモをみてもう一度彼女に感謝した。
「それにしても……あの対応力。……マネジャーにむいてるじゃないかな?」
社長に言ってみるか。
この大神の行動が後でが大変な事に巻き込まれる。
だがそれはもう少し先の話。