第1章 プロローグ
見た目ボロくてもそれなりの広さがある寮の前。
『さてさて。どうしたもんか……はぁ……。』
思わずため息が出る。
ゴム手袋にマスク、エプロンに三角巾を装着。
私の横には掃除用具一式。
なぜ私が日曜日の朝っぱらからこんなところにいるかというと…事の発端は昨日の夜だった。
『は?ぎっくり腰?!』
「そうなのよ💧痛くて痛くて……ほんと歩けなくて、だから会社の人に送ってもらったのよ💧」
母がパートから帰ってきてすぐ思わぬ衝撃発言。
あまりにも遅いから心配していたがまさかぎっくり腰になって帰ってくるとは。私は母と二人暮らしの為お互い二人三脚でこれまで頑張ってきた。そのおかげで高校にも無事入学でき、もう高3だ。だがぎっくり腰では母は働けない。9月頃には卒業旅行だって控えている。
『バイトを増やすしかないか……。』
私がバイトを増やすことを考えているとちょっとまった!と母から声があがった。
「ちゃん。あのね、バイトは増やさなくていいから、おかあさんお仕事に行ってくれないかしら??」
『は??なぜ??』
「いま会社のお給料が良くて、社長さんもとってもいい人なの。だからね、あまり迷惑をかけたくなくてね💦ちゃんと社長さんにも事情を説明してちゃんがバイト終わる時間……夕方ぐらいにしてもらうし!それか、土日だけとかでも!ね!お願い!!」
このとおりと私を拝みたおす母。
結局のところ私が掛け持ちしなくてはならないということは、かわらないし、母のところでお世話になった方が楽か……?
『ちなみにその会社っていうのは何をやってるところなの??』
「うふふ♪アイドル事務所よ♪」
『え。』
「まぁ、お母さんのお仕事はそのアイドルの子達の寮の掃除だけど!ほらアイドルと子達と話せるし、ちゃん可愛いから仲良くなれるかも知れないわよ!アイドルとお友だちや恋人関係になれるなんてお得よ!!だから、お願い!!」
なにがお得だ、クソババァ。
そもそもアイドルなんか知らんが、友達や恋人になるつもりなんて更々ないし、ましてや私のコミュニケーション能力なんてゼロに近い。
今私がお世話になっているところも厨房がほとんどで、接客などはヘルプでしか入らない。
そんな私が人と関わりを持ちながら、ましてや初めてのところで仕事ができるだろうか。