第4章 期待の大型新人
「いちについて…よーい…」
その掛け声にすぐに姿勢を整える。
"ピッ!!!"
高いホイッスルの音を確認するとプールへ飛び込む。
久々に泳ぐプールの感覚は懐かしくて、
心地が良いものだった。
泳ぐのは昔から大好きだった。
唯一、お母さんから褒められる特技だったから。
でも、いつしか、兄が活躍しだすと、
母は私を一切見てくれなくなった。
また、『紅葉すごいね』って褒めて欲しくて、
必死に練習して、ただただタイムにこだわって、
タイムは上がって当たり前で下がると母から落胆され、
いつの間にか泳ぐ事が恐怖になっていた。
でも、今はそんな事は気にしなくていい。
自由に…
泳げるんだ。
ゴールにたどりつき、
水面から顔をあげる。
そこには、
当然のごとく歓声はなく、
ざわざわと騒ぐ声と少し残念そうな顔ばかりが
並んでいた。