第2章 泳ぐのは『好き』ですか?
「えーっと…とりあえず、渚がなんかしちゃったならごめんね。俺は2年の橘真琴。で、こっちが同じく2年の七瀬遙。よろしくね。西島くん。」
そう言って橘先輩は優しく笑って手を差し出してきた。
「あ、どうも。」
私はその手を握り、握手を交わした。
「いやー、でもなんか嬉しいなぁ。俺たちにとって君って憧れの存在だったから…本物を見れるとは思わなかったよ!なぁ、ハル!」
「俺はそいつ、嫌いだ。」
「へ?」
思わずその七瀬先輩の発言にその場の空気が凍った。
そして睨みつける様な視線が刺さった。
「ちょっと、ハル!何言ってんだよ!」
橘先輩は慌てて七瀬先輩の方へ駆け寄る。
「そいつは"泳ぐのが嫌い"だから水泳やめたんだろ。泳ぐの嫌いな奴と一緒に泳ぎたくは無い。」
「ハルー!」
「ハルちゃん!」
橘先輩と葉月くんは慌てている様子だった。
「別にっ!"泳ぐのが嫌い"で辞めたんじゃねぇよ!"泳ぐのは好き"だよ!…ただ…水泳って言う"競技"が嫌いなだけで…」
思わず自分の発言にはっと口を押さえる。
3人の目線が私に刺さる。
「ほら…競技になったら競わなきゃいけないだろ?…好きなことで競う事を強いられるのが…苦痛だったんだ。だから、僕は水泳部には入らない。"水泳"はしないんだ。」
私がそう言うと
3人は黙り込んでしまった。