第5章 コンパス
松本side
テーブルにハンバーグとサラダ、それとコーンポタージュを並べてから大野さんに声をかける
「大野さん、できましたよ」
「あ、わかった、今行く」
やり取りが夫婦みたいで頬が緩んだ
「おおっ、うまそっ」
「お口にあうといいんですけど…」
言いながらシャンパンをグラスに注いだ
軽くそれを持ち上げて
「乾杯」
「お誕生日おめでとうございます」
俺と大野さんの声が重なった
「え?」
「今日…お誕生日、ですよね?」
誕生日だとハッキリした情報を得ているわけじゃないから、少し不安になりつつ聞くと
「そう、だけど…なんで…」
何度も瞬きをしながら俺を見つめてきた
「会社で二宮係長と話してたのを偶然聞いてしまって…あ、盗み聞きとかじゃないんですけど…」
誤解を招く言葉かも、と慌てて弁解すると
大野さんが柔らかく笑った
「ありがとう、松本くん」
「いえ…僕こそ、勉強見てもらって本当にありがとうございました、お誕生日おめでとうございます」
改めてお祝いとお礼を言って
グラスを軽くぶつけるとキレイな音が響いた