第1章 ホチキス
大野side
次の日も松本くんは相変わらずだった。
パソコンに向かって、なにやら静かにお怒りのようだ。
今度はなにに怒っているのやら。
そう思ってたらガタっと立ちあがって、俺の前に来たかと思うと、昨日の件のメールの内容を喋り始めた。
それは…俺がいいって言ってんだから、いいし。
新宿が向かないっていうのは、メールに書いてあったし…
なんだ?褒めて欲しいのかな?
「わかった…一日にしては、大変良く出来たリサーチだったな、松本くん」
「えっ…」
クリビツテンギョって顔をして固まった。
あれ?違ったかな…
俺、こういうの苦手なんだよね。
だから課長なんかやめてくれって言ったのに…
1課の櫻井くんとは違うんだよね、俺。
出世にはあんまり興味がない。
ただ、俺が思ういいものを売りつけてみたいだけだ。
売りつけたその先については知らない。
そこは興味がない。
俺が思ういいものが、世間にどれだけ受け入れられるか。
俺の興味はそこだけだ。
だから、マーケティングから小売への卸までやってるこの会社を選んだんだ。
だが、部下は選べない。