第5章 コンパス
大野side
「あのっ26日って空いてますか!?」
一日の業務も終わって帰ろうとしていた19時。
突然、松本くんがデスクの前でそう叫んだ。
フロアにはもう誰も居なくて、がらんとしている。
「あ、ああ…土曜日だろ?空いてるよ?」
「良かった…」
「え?」
「あっ、いえ…その、ご飯どうかなって。よかったら作ります!」
「え…いいの?」
「はいっ、ぜひ!」
帰り、にやにやが止まらなかった。
試験勉強ばっかりしてて、松本くんとはプライベートでも会ってるんだけど、それほど仲良しになったわけではない。
この際だから、友達くらいにはなっておきたい。
それが、一番近くに居られる方法なんだから…
夜空を見上げると、そこには何もない空。
ガスが掛かってて、その向こうにある星空なんて見えない。
俺の心は、ガスみたいなもんで…
やめよう。
俺はこんなおセンチじゃねえんだ。
…なんで、松本くんなんだろう。
なんで松本くんだけが俺をこんな気持ちにさせるんだろう…
「わっかんねえなぁ…」
小石を一つ蹴りあげた。
次の土曜、俺は松本くんの家へ向かった。
ちょっとスキップしてみた。
乙女かっ!俺…