第3章 ホワイトボード
大野side
松本くんエプロンなんかするんだ…
俺も貸してもらったけど、松本くんのエプロン姿は奥さんっぽくて…妙に照れて手元がおぼつかない。
時々、隣に立つ松本くんの肘にぶつかってしまう。
「あ…わりぃ…」
「いえ…」
言いながらやっぱり目を合わせられなくて手元のレタスに目を落とす。
松本くんの手元を見ると、牡蠣に器用に粉をまぶしてる。
「ほんと、なんでも出来るんだな松本くんは」
「そんなことないですよ…」
サラダはあっという間にできたけど、カキフライはまだ。
油を温めてる間はすることがなくて、二人でキッチンで無言だった。
「あ~…あのさ…あの…最後のキスシーンばっかりのフィルムってさ…」
「あ、はい」
「あれはアルフレードがトトのために作ったんだよな?」
「…そうですね…彼なりのお詫びだったんじゃないですかね…トトへの」
「そっか…そうだよな…いい映画だったな」
松本くんの顔が優しくなった。
にっこり笑って頷くと、カキフライを揚げ始めた。
その音を聞きながら、昔、母ちゃんが台所で立てていた音を思い出した。
映画のせいでおセンチになってる。
帰りたく…ないな…