第2章 温度計
大野side
時が止まったかと思った。
髪を撫でるくすぐったさに開いた目は、至近距離で端正な顔を映しだした。
綺麗だ…
なのにすぐその手は離れていって…
なんだか淋しくて、ごろんと背を向けてしまった。
「あっ…大野さん!食べてくださいっ…つか体温計は?」
忙しいやっちゃな…
ぽいと体温計を放り投げてやったら、安堵のため息が聞こえた。
「もう下がってきてますから…大丈夫ですね…」
その声が、もう帰りそうな声で…
思わず俺は起き上がって松本くんの腕を掴んだ。
「…行くなよ…」
「え…?」
熱があるからなんだか素直だった。
じっと松本くんの綺麗な顔を見つめた。
今なら…見つめ放題だ…
もっと見たい。
もっと…近くで…
掴んだ手を引き寄せて顔を近づける。
息が掛かりそうな距離になると、松本くんはぎゅっと目を閉じてしまった。
そこで我に返った。
「すまん…」
手を離すと、ベッドに腰掛けた。
「伝染るといけないから…帰れ…」
レンゲを手に取る俺を、松本くんはじっと見ていた。
「食べるから…帰れ…」
そうは言っても…こみ上げてくる寂しさはどうにもできなかった。