第1章 ホチキス
大野side
びっくりした…
松本くんが泣いてるのもびっくりしたけど。
自分の心臓にびっくりした。
なんで、男の泣き顔にドキドキしてんだ…?
長いまつげにきらきら光る涙。
大きな目は真っ赤に潤んで俺を見ていた。
いつもつり上がってる意志の強そうな眉毛はハの字に下がってて…
ピンク色の唇がツヤツヤして俺を誘って…
誘って…?
「うわおっ…」
松本くんのデスクの向かいに居る二宮くんがびくっと震えた。
「なんですか…大野さん…」
「い、いや…」
「もう決済溜まってるんですから、早く仕事してくださいよぉ…」
「うん…」
思わず二宮くんの顔をじっと見た。
童顔で、30歳過ぎてるのに老けなくて…
整った顔をしている。
うん…それだけだなぁ…
「なんですか?気持ち悪い…」
「うるせ」
「そんなに見ててもなにも出ないですからね」
「お前がケチなのは知ってる」
二宮くんはファイルを投げつけてきた。
その時、松本くんが戻ってきた。
顔を洗ったのか、髪がちょっと濡れてる。
思わず手招きして、髪に手を触れてしまった。
俺と松本くんの視線が絡みあった。
やべ…
また心臓がうるさい。