第1章 ホチキス
松本side
真っ赤になった目を冷やそうと
冷水を顔に浴びせると
落ち着かなかった心臓も少し落ち着いて冷静になれた
それなのに
オフィスに戻った途端
大野さんに手招きをされてデスクまで行くと
大野さんの手が俺の髪に触れた
大野さんの視線が俺を捉える
落ち着いていた心臓が
またドクドクと鳴り始めた
「あ…えっと…」
顔が熱くなってきて
思わず意味のない言葉を零すと
パッと大野さんの手が離れた
そして少し慌てたように視線を逸らして
「さっきのクライアントの件、メールで送っておくから」
それだけ言うとパソコンに向かった
さっきまでとは違う意味でドクンと心臓が跳ねる
「僕がやっていいんですか…?」
もうこの件からは降ろされると思っていた
恐る恐る聞くと
「いいから、言ってるんだろ」
いつものように返事が返ってくる
それが嬉しかった
「ありがとうございます」
頭を下げて
必ずこれを成功させる
そう決めると同時に
誤魔化していたかった
自分の気持ちにもハッキリ気づいてしまった