第1章 ホチキス
大野side
松本くんがしおらしい…
ちらりと運転席の松本くんを見たら、白い頬に赤みがさして、目が潤んでいる。
まるで女みたいに綺麗な顔してる。
なんか見てられなくて、目を逸らした。
社に戻って、改めてプロジェクトノートを確認した。
設定が間違っていて、プロジェクトの決済の権限が主任に設定されていたのだ。
松本くんは主任だから、打ち込んだものがそのまま決済になったのだろう。
「こりゃあ…システムもわりいから、気にすんな」
そう、松本くんに言ったら泣きそうな顔をしている。
「どうした?」
「いえ…なんでも…本当にすいませんでした」
深々と頭を下げると、松本くんはオフィスから出て行った。
気になって後を追いかけると、トイレに入っていく。
なんだ腹でも痛いのか。
そう思って自販機でコーヒーを飲みながら、戻るのを待ってみた。
…なげえクソだな…
あんまり長いからちょとだけ覗いてみた。
え?松本くん…?
鏡の前に手をついて、顔を伏せていた。
肩が震えている。
思わずその肩に手を掛けると、松本くんは顔を上げた。
綺麗な、泣き顔だった。
「大野さん…」
心臓が、大きく鼓動を刻んだ。