第6章 マグネット
大野side
もう23時になろうとしていた。
それでも俺は帰ることができなくて…
その場にしゃがみこんだままでいた。
待ち望んだ足音が聞こえて顔をあげたら、酔っ払った松本くんが無表情で俺を見ていて。
それでもお茶を一杯だけだと言って家に上げてくれた。
コトリとテーブルに置かれたマグカップは、いつものように良い香りのするコーヒーで。
手にとったら温かくて、暫く喋れることができなかった。
「あのさ…朝のことなんだけどさ。相談乗ってくれねえ?」
きっと、あれのせいで機嫌が悪いのだと俺は推測した。
だから思い切って、逆手に取ってみた。
「なんで俺が…」
そう言ってぷいっと横を向いてしまったけど、構わず喋り始めた。
「櫻井くんね、俺のこと好きなんだって…」
「えっ…」
松本くんはすごい勢いで俺を見た。
「こんなこと相談できるの、松本くんしかいなくて…」
「え…」
「わかってると思うけど、俺、他に好きな奴が居るんだ」
そう言って、じっと松本くんの顔をみた。
…これでダメなら…
諦めるしかないのかな…
キスまでしたのに…
抱きしめたら、あんなに温かかったのに…
諦めたくない。