第21章 旅立ち 〜departure〜
【 翔side 】
俺の卒業に、って。
雅紀が提案してくれたこの旅行...
海外とか、派手に行くやつらもいるし、
実際俺も誘われたけど。
...1泊2日の房総の旅...
俺にとって、忘れられない旅になった。
4月からは、医師として一歩を踏み出す。
たくさんの事例と臨床を経験をして、
自信も着いた。
でも、まだまだ、駆け出しで、上手くいかないこともあるかもしれない...悩むことも...
でも、一歩一歩、信じる道を行くしかない。
そこに、雅紀がいてくれれば...
きっと頑張れる。
「雅紀...いや、先輩!4月からよろしくご指導ください!!」
「何言ってんだよ~...もう、病棟勤務のナースには、『凄い優秀なドクターが来る』って噂になってるんだから...」
自分のことみたいにドヤ顔の雅紀に、
俺は少し笑った。
「そうなの~?何か、プレッシャーだな...」
「大丈夫。翔なら...」
雅紀...
ずっとずっと、側にいてね。
隣じゃなくてもいいんだ...俺のこと、見守っていてくれるだけで...それだけで俺は頑張れる...
雅紀が応援してくれてる...
それが、何よりの力になる。
防波堤に車を停めて、光る海を見ていた。
雅紀がいて...
俺がいる。
そんな景色が、俺の胸を温かくしてくれるんだ。
...雅紀...愛してるよ...
どこにも...行かないでね...
俺たちは、どちらからともなく顔を寄せ合い、
そっと唇を重ねた。
海の青と空の青が、溶け合うように煙る水平線を、大型のタンカーがゆっくりと移動していた。
時間が...
止まったかのような、春の午後...
俺たちは、いつまでもいつまでも、
離れられないでいた...