第10章 大人の階段昇る
愛しい翔の背中を抱き締めて、
俺は幸せを噛み締めていた。
すると、翔がそのままの姿勢で話し出した。
中学生の時のあの日以来、
性に関する行為全てを、汚いものだと思っていたときもあったこと。
誰かが身体に触れることが、恐怖でしかなくて、コンビニで男性店員の指先が触れただけで、汗が出てきて、息が苦しくなった。
だから、もう自分は、誰かと愛し合うことなんて、出来ないんだと思っていた。
でも、俺と一緒にいて、それが嫌じゃなくて、
普通に恋人たちがするようなことをしたいって、そう思うようになって....
でも、そうなると行き着くところは、
セックスな訳で。
俺のことは好きで、もっと触れたいし、
もっと知りたいけど、
その先にいくことに、大きな壁があって、
どうしても一歩踏み出す勇気がなかった、と。
そして今日....
俺が翔を受け入れたことで、ひとつになれた。
それはもう、言葉では言えないくらいに、
幸せな時間だった。
そして、
その間。
あの忌々しい記憶に怯えることも、
まして、思い出すことさえなかった...と...
「雅紀、ホントにありがと。
雅紀がいたから、俺、生きていきたいって、
心の底から思ってるよ....」
「翔.....」
「雅紀.....」
俺たちは空気が流れるように、
ゆっくりと近付いて唇を重ねた。
閉じられた翔の大きな目から、
綺麗な涙が溢れ落ちた。
大人になる階段があるんだとしたら、
この日、不器用だけど、
今の俺たちの精一杯で、ひとつ、登った気がした。
翔.....アイシテルよ...ずっと、ずっと、
一緒にいようね.....
俺は心の中で、そう呟いた。