第8章 イノセント
......大切にしたかった...
あんなふうに、無理やりされた恐怖の経験を、
俺が、忘れさせてやりたかった...
だから...急いで先に進みたくなかったんだ。
...そりゃあ、俺だって普通の男だし!
あ~...少し普通じゃないかもしれないけど。
好きな人と、愛し合いたいって、そう思うよ...
でも、それよりも、翔の気持ちを大事にしたい...
翔がそうしたいって...そう思うまでは俺、
彼を怖がらせるようなことは、絶対にしない...
.........
そっと触れただけで離れた俺を、
潤んだ目の翔が見つめている...
「翔...大切にする...翔のこと...」
「......雅紀...ありがと..」
俺は、いろんな気持ちを込めて、
もう一度、今度は翔の額にキスをした。
そして、俺たちは身体にできた僅かな隙間さえも許さないくらいに、しっかりと、強く抱き合った。
東京の空を染めていた夕焼けは、いつの間にか夜の帳を連れて来ていた。
まだ月の登らない暮れなずむ町は、
始まったばかりの俺たちを、優しく隠してくれていた。
......翔。
自分は汚れているって、そう言ったね...
これからいっぱい教えてあげるよ...
君はちっとも汚れてなんかいないってことを...
こんなに綺麗で。
まさに、俺にとっての天使で。
俺にとっては守るべき大切な存在...
...大好きだよ。翔...
何があっても、ずっとずっと、一緒に居るよ...
そう心の中で何度も繰り返す俺は、
翔の背中をそっと撫でた。