第5章 project:birth ※R-18
「答えられない。"分からない"からね」
それが本当なのか嘘なのか、
私如きには分からない。
二番目の、疑問。
「……どうしてこの計画への参加を了承したの?」
「僕としては、財団の将来の為に協力したい。
ここを牢獄だと言う者も居るけれど、
皆良くしてくれている。
人類の、地球の繁栄の為に尽力してもくれている」
「ありがとう」
「君はどうなんだい?」
「私?」
「どうしてこの計画に?」
「私は……」
薄く冷たい青の虹彩が私をじっととらえる。
「貴方と、同じ。この星の、将来の為に。」
そうだ。
そしてこれは、その為の実験。テスト。
いくら馬鹿げていようとも。
「カイン、よろしくお願いします」
私は席を立って彼に歩み寄り、手を差し出した。
指先が細かく震えているのがわかる。
カインは私の手を取って、優しく握ってくれた。
化学繊維の布越しでも、その冷たさは伝わった。
一週間。短いようでいて、これまで全く交流のない者と
仕切りのない部屋で過ごすにはあまりにも長い時間。
そしてその限られた時間で、私は
任務を果たさなければならない。
カインの代謝は私達とは違うが、
私は普通の人間なので本当は直前にシャワーを浴びたい。
しかしそれを言い出すには、まだ、私の心の準備が整わずにいた。
まるで希少動物の交配の瞬間を待ち侘びるように、
上の人間は今この映像を眺めているのだろうか。
そう思うと自分がただの実験動物、
マウスやウサギになったような気持ちで、かえって落ち着いた。
そう。私は実験動物なのだ。
崇高な意思とは裏腹の暗示を自分に施し、
自己犠牲の覚悟を決める。
「カイン……私は準備を始めてきます。少しだけ、待っててください」
バスルームも非常に無機質な作りだった。
白のタイルとコンクリートの灰色。
でも、これくらいで丁度いい。
情緒なんて必要ない。
私は体を洗い、バスローブを纏って外へ出る。
寝室へ行くとカインがベッドに座っていた。
この部屋にはダブルサイズのベッドしかない。
ソファもない。眠るときは必然的に
二人並んでくっついて、眠るのだ。