第5章 project:birth ※R-18
ここから先の記録は、プロジェクトメンバーでも見ることは出来ないと告げられた。
そもそも記録をするのかと聞きたかったが、
貴重な記録となるのだから、当然なのだろう。
何か問題があれば即中止命令を下せる人間だって必要なのだ。
私をからかった者は誰も見ることは出来ない。少し気分が良くなった。
特別処置室、というプレートの貼られた扉の前に立ち、
ナンバーロックを解除してくぐる。
二つ目の簡素なドアを開けると、中は家具と設備が一通り揃えられた、
一般的な生活様式の一室だった。
ただ、ほとんど金属製かプラスチックで出来ていて、
無機質さは拭えない。
私はここで、一週間を過ごす予定だ。
可能ならばここでSCP-073と寝食を共にし、
交流を深め、交配へと至る為に。
外部との接触は断ち、こちらからの要望は一日に二度の、
朝と夜の通信で伝える。
最初の接触から数日の間に私は再度研修を受け、
男女の性的接触や心理についても学んだ。
だが、経験が伴わないそれらに
どれほどの意味があるのだろう。
この実験への研究としての興味、
男女の関係についての興味、
未知の経験に対してのおそれと、
好奇心。
私の胸は高なっていた。
数分がたち、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアが開き、現れたのはSCP‐073、カイン。
白い襟付きの長袖のシャツに黒のスラックス、
黒の手袋。前に会った時と同じ格好。
私の姿を認めると、一瞬目を見開き、驚いた顔をした後柔和に微笑んだ。
「驚いた。とても綺麗だ」
心臓が跳ね上がる。
「……わ、私は……」
「そんなに緊張しないで」
淡々として、落ち着いた口調。
彼のプロファイルには冷たい印象だと書かれていたが、
私には全く逆に感じられた。
「マコ。少し話をしようか」
私達はテーブルに向き合って座った。
話。一体何を話せばいいのか。
彼についての興味は尽きない。
「聞きたいことがあれば、何でも答えるよ」
「じゃあ、一番の疑問……あなたは旧約聖書の「カイン」なの?」
カインは眉を上げて、わずかに微笑んだ。