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そうして君に落ちるまで

第1章 距離感調節中(リンク)









「……では沙優さん、私からも1つ。敬語はやめてください。そもそもあなたの方が歳上でしょう。」

「…………え?」

「…」


先まで纏っていた柔らかく美しい雰囲気は何処へやら。私の言葉に彼女は目を丸くする。

「えっ…?まっ…ハワードさんいくつ?」

「19です。」

「うっそマジで?!」

急に砕けた彼女の言葉に少し驚く。
切り替えが早い。

「は〜〜もう本当これだから西洋人は…はぁ〜〜」


彼女はずりずりと座ったままこちらへ近づくと、下からまじまじと私の顔を関心したように見つめるので思わず体を後ろへ反らした。


「近いです。」

「ふーん。へーぇ。なーんだそっかぁ」

「聞いてませんね?」


私の質問に答えることはなく、にこにこと満足気な彼女とは裏腹にこちらは鼓動が速くなる。

が、やはり嫌な感じはなく。
少し心地の良いくらいだった。


「じゃあもういいよね、ハワードでいくわ。うん。」

「えっ。」

「えっ?イヤ?」


調子乗りすぎた?と顔がみるみる沈んでいく彼女。
疲れでテンションが上がっているのだろうが、くるくると変わるその表情は見ていて面白い。


「あの…ハワード…さ…ん」

「構いませんよ。」

恐る恐るといった彼女の目にまた光が戻っていく。

「ありがとう!」

「…どういたしまして。」


ふわりと笑う彼女につられ、口元が緩む。
程よい気温に澄んだ空気。
柔らかな月明かりに照らされたここは、今、世界には自分と彼女の2人だけなのではないかと錯覚させた。

そしてそれは、今この時においては私にとってあながち間違えではないのだ。



「さて、そろそろ寝ますよ。部屋までお送りします。」

「本当?夜の教団怖くってさ、廊下とか本当出てきそうだし。ありがとう。」


砕けた言葉に柔らかな笑顔。
彼女はよくお礼を言う。

なかなかに心地いいものだな。

言葉遣いにはまだ慣れないが、自分へと向けられる表情は変わらず彼女のもの。

「おやすみなさい。」と今、この瞬間この言葉を受け取ったのは自分だけなのだと思うと、どこか満たされた想いを生んだ。









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