第7章 寵愛(ティキ)
バレていたことはどうでも良い。
ハートかどうかも分からない一介のエクソシストなぞどうでも良いだろう。特に咎められることもない。
そうじゃない
わからない
それでも身体が動いていた。
腕が動くと喜んでいた沙優の顔が頭に浮かぶ。
そう、腕が動く程度だ。
能力的にも恐らく戦闘向きではない。
こんな事ならオレが殺しておけばよかった。
オレが殺したところできっと彼女は涙を流すこともないだろう。淡々とオレの手の中で、その死を受け入れていくだろうか?
それともイノセンスをどうにか操って必死で抵抗してくるだろうか
どちらにせよ、そんな役目をただのアクマに奪われるだなんて許せない。
ロードは「遊ぶ」と言った。きっと時間的にはギリギリ間に合うかどうかと言ったところのはずだ。
彼女の血でできた海に佇む自分の姿が頭をかすめる。
あぁくそ、どうしてこんな胸が痛いんだ。
隠れ家につくやいなや、慌てて寝室のドアを開ける。
オレと沙優だけの、2ヶ月ばかりを過ごしたその部屋は、ベッドの天蓋がへし折られ、埃と煙とアクマの毒ガスが立ち込めていた。
足に触れる黒い液体、アクマたちの亡骸を背に、5体満足で、窓から出ようとする沙優だけが眩しかった。
「沙優…!まて!違う!」
「…じゃあね、ティキ」
窓から彼女の身体が落ちる。
慌てて駆け寄りその下を、外を見渡したがその姿はどこにもなかった。
きっと、追いかけても無駄だ。