第7章 寵愛(ティキ)
「ティキ、髪」
「拭いて」
頭をたらし、濡れたままの髪を彼女に向けてタオルを渡す。
「…上にシャツくらい着てくれませんかね?」
「もう見慣れただろ?」
「そうだけど…」
今近いし。と少し顔を赤らめる。
確かに上に何も着ずにベッドへ上がるのは初めてだった。
あくまで友人に近い距離。
彼女にオレを受け入れさせるために大切に守ってきたボーダーラインだ。
「…悪い悪い。コレでいい?」
彼女の頭を撫でながら白いシャツを纏う。
「もう髪もいいや。あんがと。」
「まだ全然拭けてないよ。」
「大丈夫。」
タオルをとりあげ床に投げると、彼女を抱きしめながら優しくベッドへ倒れ込んだ。
オレより先にシャワーを浴びた彼女は石鹸と彼女の香りが混ざってとても落ち着く匂いがする。
「今日のティキはなんか甘えん坊だね。」
「…そうかな?沙優が腕が動くって無邪気に喜んでるのがかわいいからかも」
「うるさい!」
腕の中の彼女の顔を見れば眉をひそめて赤くなる。
こんなに間近で、身体を寄せ合ったまま話すのは初めてだな…
「腕なんか治ったって、身体が完治したって、俺に敵うわけないのに。」
思わず口からこぼれた言葉に驚いたのは自分自身だった。
気をつけていたのに。
自分で決めた一線がグニャリと歪む。
ダメだ…
「ティキ?」
彼女の顔の横に手をついて馬乗りになる。
ベッドのスプリングがギッと音を立てた。
「わかんねぇ?目つぶれよ」
戸惑うような、怯えるような顔に余計に胸が騒ぐ
壊してしまいたい
「……ごめん。」
「は?」
突然なんだと一瞬止まったところで彼女腕が首に回される。
気づけばそのまま彼女の肩に顔を落とされていた。
優しい手で頭を撫でられる。
「ごめん、私、ティキのこと知りたくない。」
…………
っあー…
なんだこれ、胸をぐしゃっと踏み潰されたような気分だ。
これは完全な拒絶だ
沙優の鼓動がドクドクと身体に伝わってくる。
柔らかい体、ちょうどいい温度、オレの好きな匂い
胸のつかえとは裏腹に、すべてが心地良くて落ち着く。
何も言葉が浮かばなくてそのまま静かに目を閉じた。