第5章 いつもの(神田)
アレンくんはあれから気に入ってくれたようで。
毎日頼んでくれるから、嬉しいし楽しい。
楽しいんだけど…
なんだろう、なんかストンとこないというか。
「沙優ちゃーんお蕎麦お願い〜」
「はーい。」
はぁ…とため息をつきながら作業に取り掛かる。
慣れた作業であっという間にできたそれは、少し気持ちを軽くさせた。ああ、良い匂いだ。
「蕎麦お願いしますー!」
「あーごめん!今手が空かないから出してもらっても良い?」
チラリと周りを見渡せば、確かに誰も手が空いていないようで。そういう事なら仕方ない。
アレンくんの笑顔に癒されるも良……
……あの子さっきこなかったっけ?
鼓動がどんどん早くなる。
あれ?なんだこれ。
カウンターに向かい、シルエットが見えれば、顔が熱を持つのを感じる。
「お待たせしました…」
カタリとお盆をおけば、無言で長い大きな手がそれに触れる。
落ち着け、だめだ、顔が上げられない。
神田くんはきっと私の事なんて覚えてないから。おちつけ…
早く行ってくれないかな。
目の前の影は動く気配がなくて。お盆に目を落としたまま固まっているのが視界に入る。
…ん?なんでこんな固まってるんだ?
え?私なんか間違えた?
バッ顔を上げれば、向こうもスッとお盆から顔を上げ、視線が交わる。
「……風邪、治ったんだな。」
「…………
え?」