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そうして君に落ちるまで

第1章 距離感調節中(リンク)









「アレン、ハワードさん」


その名で呼ばれるのは珍しかった。初め、それが自分だと気づかないほどには。

「沙優さん?」

黒い髪を揺らしながらこちらへゆる〜くかけてくる声の主に、隣にいたウォーカーが返事をする。

「これね、明日の任務の資料でないって騒いでたやつ。見つかったから渡しに来たの。」

「あぁ、ありがとうございます。」

「はい、ハワードさんも。」

「….どうも。」

彼女と会話をするのはたしかこれで2回目くらいだろうか。名と役職を名乗り会釈をして終わった初対面。だったはずだが…

「?え?2人ともなんかわからないところあります?」

ウォーカーも恐らく同じことを考えているのだろう。2人揃って無意識にまじまじと見ていると彼女はこちらと資料を交互に伺う。

「いえ…いや沙優さんってリンクと仲良かったんですね。」

「え?いや…知り合ったばっかっていうか会話するのはこれで2回目だけど…え?なんで?」

「いや、だってハワードって…」

「え?フルネームハワード・リンク…であってますよね…?」

まさか間違えた?!と言わんばかりに彼女の表情がかたくなる。初対面との若干のイメージの差を感じるのは、あのときの笑顔は外面だったのだろう。

「合っていますよ。合っていますけど、私のことをファーストネームで呼ぶ方は少ないので。」

「そうそう、ほら僕もだけどみんなリンクって呼んでるでしょ?あぁ、でもミランダもハワードさんって呼んでたか。」

「あ、うん。え?あれ?」




ちょうどお昼ということで、食堂まで行く道すがら話を聞けば、どうやら「西洋ではファーストネームを呼びあうもの」と思っていたらしい。

「まぁたしかに、ファーストネームで呼ぶことが多いけど、別にそういう決まりってわけじゃないよ。」

「そうなんだ〜教えくれてありがとう。ハワード……リンクさんもすみません。」

「別に訂正しなくても結構ですよ。呼びやすい方で。」

「あ、ありがとうございます。じゃあハワードさんの方が楽かも、ちょっと慣れてきてたし」

「どうぞ。」




それからウォーカーと彼女の会話を聞きながら食事を済ませ、科学班のデスクへ戻っていく彼女を見送った。






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