第2章 プロローグ
『うっ…、くっ、』
悲しみに涙がこぼれる。
弟が、母が不憫だった。
どうして?
どうして?
父に心のなかで問いかけるが答えはでない。
その内、嗚咽だったそれは、叫びに変わっていく。
止めることができなかった。
私は子供みたいに泣き続けた。
汗が冷えて寒いとか、近くを通った人に聞こえたらとか、そんなことを考えられないくらい泣いていた。
その内なぜ泣いているのかわからなくなってしまった。
しばらくして、ようやく落ちついてから、私は寮に戻った。
身体が冷えきっていたので、すぐにシャワーを浴びると髪も濡れたまま布団に潜り込んだ。
『ゴホゴホッ。』
咳をしながら明日のためにアラームをかける。
電気を消すと、泣き過ぎて疲れたのか、睡魔がすぐにやって来た。
『ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ』
夜中に、私は咳で目を覚ました。
時計は午前2時を指している。
気管支が弱い私は、こうして夜中に目覚めることがよくあった
『ゴホッ、ゲホッ,ヒュー、ガラガラ,ゴホゴホゴホッ。』
今日はいつもより酷いなと思いながらベッドから起き上がる。
ルームメイトをチラリと見るが熟睡しているようでほっとする。
(咳煩くて起こしちゃったら可哀想だもんな…)
そう考えてから、ふと幼い頃を思い出す。
両親に挟まれ寝ていた私は父に蹴飛ばされ目がさめた。
寝ぼけたまま咳をすると、先ほどより強く蹴られる。
父「次咳したらぶん殴るかんな。」
訳がわからないでいると父がそう告げてきた。
私はあわてて両手で口を押さえた。
それでも、咳を押さえきれる訳がなく、私は父が再び眠るのをまって急いでトイレに入って咳をした。
その夜は苦しく長い夜だったのを覚えている。