第43章 終末での始まり
それがいけなかった。
ルミは俺の耳元に口を寄せると囁いた。
『…先生…私の姿が見えなくなるまで、動いちゃダメですよ。』
いつの間にか俺から離れたルミの言葉に、そんなもの聞ける訳がないと手を伸ばそうとした。
「なっ…!?」
だが、俺の身体はピクリともしなかった。
『…言霊って知ってますか?
言葉が現実のものになるんです…言葉には力が宿っている。
それを利用した術です。』
ルミは俺に説明する様にそう言った。
『先生が隙を見せてくれて助かりました…
言霊の力があっても先生から逃げきる自信はなかったから…』
ルミは俺から数メートル離れたところで立ち止まると振り返った。
『先生…今の私は貴方に勝てるほど強くありません…。
でも、私はまだまだ強くなるつもりです…。
先生も私に追い越されないように頑張って下さいね?』
ルミは馬鹿にしているとも取れる言葉を残し、再び俺に背を向ける。
その時、スルリとルミの額宛の紐がほどけ、地面に落ちた。
ルミは落ちた額宛を見て、一瞬驚きの表情をしたが拾うことはせずに歩き出す。
「……まてっ!………ルミっ!!
…行くなッ!!」
俺は遠ざかるルミの姿に、叫ぶことしかできなかった。
降りしきる雨のなか、ルミの姿が霞出す。
ルミの姿がすっかり消え、もう後を終えないだろうという頃、ようやく俺の身体は自由になった。