第8章 猫は紅い血に染まる
桜がぶわっと舞い上がり、その後ろの人影がトド松くんの肩を掴む。
「.... ストップ 、トド松 」
人影の後ろには、さらに大きな影が月明かりをバックにゆらりと佇んでいる。
グルルルッ....
少し生臭い匂いと、獣の匂いが混ざって私の意識を戻す....
「....オレを怒らせるとか.... 馬鹿なの?トド松?」
低い声だ。
とっても怒ってる....
誰?
グルルルッ....!
月明かりが人影を照らす。
「.... い.... ち.... まつ.... く?」
ジっと私を見下ろす一松くん。
音もなく私に近寄ると、そっと私の頬に触れた。
「....んっっ」
冷たくて気持ちいい....
火照った体にひんやりとした一松くんの指先はあまりにも気持ちよすぎた。
「トド松.... お前鈴音になにした?」
くるりと後ろを振り返り、私を庇うようにトド松くんの方向を向く一松くん。
「やだなー、一松兄さん、そんなに怒ってーいつも僕が人間にしてることだよ?」
「....チッ」
かすかに舌打ちが聞こえる。
その瞬間....
グルルルッ!!!
トド松くんの真後ろにいた大きな影が、その姿を現す。
ギラギラとした金色の瞳
漆黒の毛並み
黄ばんだ大きな牙
猫だ.... とてつもなく大きな....
「アルをけしかけるなんて酷いね、一松兄さん?僕らはヴァンパイアなんだよ?ねぇ?僕がしたことが間違ってるなら、それはヴァンパイアを全否定してることにならない?」
にやっと笑うトド松くん
あぁでも、わかるよ
足が震えてる....
本当はそんなこと思ってないことも、怖がってることも。