第28章 初雪は淑女と共に
「それじゃあもう一度乗ってくる?」
屈託のない笑みを浮かべきらきらしだすレディ。
ごめんなさい、もうお腹いっぱいですとは言いづらいほどに眩しい。
その笑顔の為、俺カラ松はもう一度死のランナウェイに旅立つのもまた運命なのかもしれないが...。
空を見れば、もう随分と暗くなっている。
青がオレンジに飲まれ、群青と小さな光を連れてくる。
閉園までそんなに時間もないのだろう、できるだけレディと一緒に過ごしたい。
「カラちゃん?どうしたの?ぼんやりして?そんなに乗りたいの??」
レディの笑顔を見ていたい。
「あー、えーと。いややめておこう、俺はレディと一緒にここに来たんだ。どうせ乗り物に乗るならレディと一緒に乗れるものにしよう」
ふっとカッコをつけてみる。
もうアレに乗りたくないのもあるんだが、レディに言ったことが1番の本音だ。いや、本当にもうアレはダメなんだ。胃の内容物があがってくる感じがたまらなくつらい。
トト子ちゃんのボディーブローに比べたらまだマシだろうが、生きる為に逃げる事もまた必要なのさ。
俺は悠一のようにはならないぜ!
悠一、お前の死は無駄にしない!
勢いよくベンチから立ち上がる。
だいぶマシになってきたし、そろそろ動けそうだ。
「さて、レディと乗れそうなものを探そうか?」
「うん!」
嬉しそうに俺の手をとるレディに、眉を下げ困ったように俺は笑う。
本当に、無防備すぎるんじゃないか?
小さな波紋が心の底で音を立てた。
どんな姿をしてたって、俺はヴァンパイアだ。
チリチリと胸の深い所で何かが燃えるような熱を帯びる。
彼女の小さな手の温もりを感じるほど、思いは強く色濃く。
夜の群青に似ている。
昼の太陽光に包まれ見えなかった欲が星。
夜は俺達の世界だからか?
俺が星に魅入られるのもまた仕方のないこと。
横を見れば嬉しそうなレディ、その姿をみた瞬時にぐっと胸を抑える。
何故こんなにも胸が痛いのだろう?