第28章 初雪は淑女と共に
夕焼け空の中で、空を飛ぶこの瞬間が俺は好きだ。
レディが悲しそうな顔をするものだから、もう帰ろうと思っていたのに予定を変更した。
高く高く空へ上がっていけば、より一層に冬の風に抱かれ身体が冷えてくる。
「レディ、寒くはないか?」
横抱きにしているレディに問えば、小さく首を横に振る。
子どもの体温だからだろうか、小さいレディの熱は俺を溶かしてしまいそうだ。
冷たい風に雲が流されていき、俺とレディの向かう先と反対方向へと向かっていく。
白い雲は、夕焼けに照らされてオレンジ色にその身を焦がす。
炎に包まれているようなその光景は、自分の心の中と似ていて酷く滑稽に思えた。
何千年ぶりだろうか、こんな気持ちになるのは...。
「カラちゃんどこに行くの?」
「ふっふーん!レディが笑顔になれるところさ!全てはこのカラ松にまかせておけばいいさ!」
心の中とはうらはらに、カラ元気を装いつつレディの笑顔を求めて空を飛ぶ。
海の音は遠く、耳元で風の音が騒がしい。
小さくコクリと頷くレディは、俺の革ジャンをぎゅっと握りしめようとする。
けれどその度に小さな手は革ジャンをつかみ損ねて、滑り落ちていく。
「レディ、怖いか?」
空中でいったん止まり、海の上を漂うように風に吹かれる。
その一言に大きく目を見開き、じっと俺をみつめる。
レディの美しい瞳には俺が写りこんでいるのに、何故か俺を見ているような様子ではない。
ただただ不安げに揺れる瞳。
その中で揺れる俺。
...俺がいる。
口から出そうになったセリフは、自分でも驚いてしまいそうだ。
じぃっと音をたて、革ジャンのジッパーをおろして裾をレディに掴ませた。
「ほら、これで怖くないだろう?」
そう言ってレディを抱く力を少し強める。
そうしないと不安で潰れてしまいそうな気がしたからだ。
レディも、そして俺も...。