第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
胸の奥深く、ハートのそのまた深い所が、鋭い何かに鷲掴みされているように痛む。
キリキリと酷くきしむ音がする。
レディにこんな顔をさせる輩は誰だというんだ。
幼い容姿に合わない憂いと切なさを秘めた悲しくそれでいて美しい瞳。
迷子の子猫のようだ。
差し伸べた手すらとっていいのかわからない、ただ首を傾げ空を見る。
包んでくれる温もりをひたすらに待っている、そんな瞳。
「レディ...」
言葉が...見つからない。
長い、時を生きてきた。
気の遠くなるほどに長い長い年月を生きてきた。
人の何百倍もの時間、それは想像も絶するほどだ。
それだけの時間なのだから、様々な事を蓄積できる。
だが、俺の生きてきた長い年月のなんと愚かな事か...。
そんなに長き時を生きているというのに、小さな少女一人さえ泣き止ましてやる事のできる言葉の一欠片さえ考えつかないのだから...。
あふれでるしずくを止めてやる事ができないのだから...。
目尻から溢れるしずくをすくい、ふうっと息を吹きかける。
パキパキと氷の音がかすかに耳に届けば、キラキラと太陽にさらされながらしずくは溶けて消えてゆく。
「...カラちゃん?」
ああ、やっと君の瞳にうつれた。
ゆっくりとレディの髪を撫でる。
「レディ、行こう」
「...え?」
あぁ、神様がいるのならどうかこのカラ松に教えてやってはくれないか?
ふわりとレディを抱き上げ、じっと見つめる。
言葉はみつからない、情けない話だが...。
けれど、できることはあるだろう?
きょとりとした顔に、ふっと笑ってみせる。
「さぁ、このカラ松と行こう!そうだな!水族館もよかったが、次は思いきり身体を動かせる所がいい!」
俺の言葉にぱちくりと瞬きをする。
残った流星が落ちていくことすらも、俺には耐えられない。
泣くな、レディ...。
君が泣くと、俺も悲しい...。
「行くぞ!」
レディをしっかりと抱きしめ、海へと走り出す。
「しっかり捕まってるんだぞ!」
海も山も越えよう。
レディ、君が笑うまで...。