第26章 揺れる心〜愛の逃避行、無垢なる笑顔と恋のlabyrinth〜
オレは鈴音の前にしゃがみこんだ。
「ねぇ?なんでそんな泣くの?そんなにカラ松が大事?」
オレの一言に大きな瞳が揺らいだ。
そしてオレの心も、大きく大きく波紋をたてる。
勢いにまかせて言ってしまった言葉、これじゃあ自分がカラ松じゃないって言ってしまってるも同然だ。
オレはバサっと上着を脱ぐ。
その上着をさっと鈴音の肩にかけて、じっとサングラスごしから鈴音を見つめる。
「え...?」
明らかに動揺して揺らぐ瞳、小さいくせにこういうことに感がいい。
あぁダメだ、自分で言っててなんだけど早くここから逃げないと...。
でも...
「ねぇ?チャシャ猫のお兄ちゃんの事なんて思ってる?」
こうなってしまえばといきなりの急展開に便乗して、早口で言ってしまう。
そしたらしずくをボロボロこぼし、鼻水をすすりながら大きな声でたった一言だけいう。
「大好き!」
酷い顔、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな酷い酷い顔。
そんなふうにいうボクもきっと酷い顔をしている。
このまま抱き締めてしまえたらと、肩を引き寄せようとすれば冬の冷たい風に乗って嫌な匂いがした。
「お兄ちゃん...」
いつの間にか鈴音が『カラちゃん』なんて呼ばなくなっていた事に気づかず、オレはスっと立ち上がる。
「...ごめん」
一言だけ残して、くるりと後ろを向く。
「まっ...て...」
声にならない声を出して、小さな手がジーンズを掴む。
「...また」
消えてしまいそうな声でつぶやいて、足を2回その場で打ち付けた。
いつもなら使わない移動手段、なぜなら大抵は失敗するから。それなのに鈴音と一緒にいる時はすんなりと上手くいってしまう。
瞬きが終われば、目の前に広がるのはさっきまでいたお店の赤色の雨よけがみえた。どうやらここは、水族館の屋上らしい...。
こんな時に限って、本当に上手くできる...。
本当に、上手く...。
ひゅうっと風の音がひどく寂しげにきこえた空は、青くすんでいてやっぱり自分には手が届きそうにないのだとそう思った...。