第16章 紅葉は紅く染まる
欲しいものは何かと聴かれた。
夏祭りの夜に黒い影に捕まった。
祭り囃子が遠くに聴こえた気がした。
自分の影法師にくっつく何か。
甘く甘美な囁きが、鼓膜を貫く。
望むものは何かと聴かれた。
きっとこれは、悪い物だとわかっていた。
でも....
「鈴音.... 」
つうっと一筋涙を溢して名前を呼ぶ。
鈴音が欲しい
欲しいんだ。
きっとこの時から奴の術中にはまっていたんだろう。
影法師はニタリと笑った気がした。
そしてこう囁く。
「何を我慢する必要がある?貴殿の望むものは目の前にあるというのに?さぁ.... 欲望に忠実に....」
この手をとれば後には戻れないこともわかっていた。
それでも魅せられた。
それは.... きっと
君を愛しすぎたから....
紅い薬が数個、手の中で転がる。
「欲しいのだろう?鈴音が?皆に好かれてやまないあの女を、一人だけのものにしたいのだろう?」
甘美で残酷だった。
「さぁ、それを飲め....きっと貴殿の望むものを手に入れられるだろう」
これを飲んだらきっと終わってしまう。
「なにを躊躇う?欲しくて欲しくて堪らないのだろう?愛してやまないのだろう?」
再び頬に涙が伝った....
ごくん....
小さく喉がなる。
熱くなる体、衝動....
きっともう
とまらない....