第12章 社員旅行。
side月島
「チェックインしますのでロビーに集合してください。」
事務の清水さんがそう言うと他の人はぞろぞろとバスを出て行く。
気づかれたよな…
灰羽に。
隣にいる梢は余韻に浸っているのかまだ動けそうにない。
『ごめ…月島くん…』
何に対して謝っているのか。
ここに着くまでに達したこと?
灰羽にばれたこと?
バスを降りれないこの状況のこと?
いずれにしても今回はちょっとやばいかな。
「立てる?」
そう梢に言い、僕は手を貸す。
梢は素直に僕の手を借り立ち上がったが足取りがおぼつかない。
「椎名サン…」
体を支えるふりをしてそっと耳元で囁く。
「あとで”お仕置き”…ネ?梢?」
『っ…あっ…』
ぐらり。
小さく喘いで梢の体が傾く。
僕は支えるためにとっさに手を伸ばした。
それよりも早かったのは、梢を迎えに来た灰羽。
「俺が連れて行く。」
有無を言わせぬ表情。
「ああ。」
『りえーふ…くん、わたし…だいじょぶ』
「本当に…?」
ひやり
空気が凍る。
いつもの能天気な顔からは思い浮かばないような冷え切った瞳。
耐えきれなくなった梢は目線を下げ、灰羽に体を預けそのままバスを降りた。
遅れてホテルのロビーに行けば清水さんに渡される2つの部屋の鍵。
灰羽が梢を部屋に連れて行ったから渡し忘れたみたいだ。
わかりましたと愛想笑いで受け取る。
「あ、そうだ。椎名サン、席に忘れ物してたんで後で届けたいんですが部屋番号教えてもらえませんか?」
「椎名さんは…1030。
月島くんの隣の部屋よ。」
隣か。
都合良さそうだな…
そう思いながら僕は自分の荷物を抱えて部屋に向かった。