第10章 出張。
お昼前、必死にパソコンにかじりつき資料を打ち込んでいると誰かが私のことを呼ぶ。
その声の主を探せば天童さんが手招きをしていた。
来い…ってこと?
メモを持ち、近寄るとパソコンを見ながら、天童さんが喋る。
「さっきデータ送ってくれたココ、なんだけどさー。」
そう言いながら天童さんは横にある適当なミスプリントにカリカリと文字を書き始めた。
「この方がいいんじゃないカナ?」
そう言って見せてきた文章に、私は血の気が引いた。
”昨日仕事終わった後、駅前で何してたのカナ?”
うそ…
もしかして、見られて…た?
『じゃあ、こうしたらいいですかね?』
さらりと自分のメモに記入をし天童さんに渡す。
”昨日はホテルから出ていませんが”
それを見てニヤリ。
天童さんは笑う。
「イヤ、こっちの方が…」
”目立つよネ?メガネ君の容姿。
認めたくないのはわかるケド。”
1度書くと、天童さんはうーんと悩みまた、ペンを走らせる。
”路上でのプレイは誰が見ているかわからないヨ?”
そう書き、天童さんは私を見る。
面白そうなものを見るような瞳。
これはごまかせない…
『埒があかないですね。』
そういうと私はメモに書き天童さんに渡す。
”何が望みですか?”
それを見た天童さんは自分の下唇を舐める。
そしてがたりとデスクから立ち上がると牛島部長の方へ歩き出した。
「わっかとっしくーん!意見衝突しちゃったからいつもの部屋使わせてー。」
牛島部長は天童さんを一瞥するとまた、手元のパソコンに目を移す。
「…構わん。午後の仕事までには終わらせろ。」
ちゃらりっ
牛島部長は鍵を渡す。
それを受け取った天童さんは上機嫌で資料とペン、タブレットを持つと私の腕を引く。
「ほら行っくよー!」
戸惑いながらちらり月島くんを見ればぱちんと目があう。
しかし目線はすぐにパソコンに落ちる。
『あ…はい…』
私はとっさに自分のカバンを手に取りグイグイと手を引く天童さんを小走りで追いかけた。