第4章 九十、漆黒の闇
「そうか。……じゃあ七緒ちゃん、今日は僕と読書会をしようか」
え、と私の声と京楽隊長の声が重なる。高遠さんはにこにこと笑ったまま、相変わらず目線を合わせてくれている。
見知らぬ人と本を読むなんて、いやそれより高遠さんは京楽隊長と用事があったのではないだろうか、なによりさっきの京楽隊長の戸惑うような声はどんな意味があったのだろうか。
私はすぐに返事ができず、隊長の方を振り仰いだ。
「ええ……満流ちゃん、いいのかい?」
「構わないよ。それに、どうせ知ることになるんでしょう?」
「それは、そうかもしれないけれど」
「いいよ、本当の事はその時まで言わないさ。高遠満流と七緒ちゃんはここで友達になった、そして読書会をする仲になる。そこまでならいいじゃない」
「まあ、ねぇ」
「そしてゆくゆくは僕のことを知ることになるなら、今から縁があってもいいじゃない。大体そのつもりで今日僕をここに連れてきたんでしょう?」
「そこまでは考えていなかったけれど……」
隊長と高遠さんは、私には意味の分からないことを話し合っていた。やがて隊長が諦めたように、溜息を吐いた。
「七緒ちゃん、そうしてもらいなさい。決して怪しい人ではないからさ」
「そう、七緒ちゃんが嫌でなければ。僕はきっと、君に色々なことを教えられるよ。僕と二人が嫌なら、春水ちゃんも一緒にいればいい」
色々なことを教えてくれる。
私が八番隊で頑張っていくために必要なことも、教えてくれるだろうか。
……矢胴丸副隊長の行方を、教えてくれるだろうか。
「よろしくお願いします、高遠さん」
「満流でいいよ。よろしく」
満流さんは、優しく笑った。
私はなぜか、母のことを思い出していた。
「ところで、どんな本を読んでいるの?」
「今はこれを」
「……エグイ本、読んでいるんだね」