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BLEACH お題消化2

第4章 九十、漆黒の闇



 矢胴丸副隊長は今日もいない。
 あの夜、矢胴丸副隊長は、明け方になっても帰ってこなかった。
 次の日から瀞霊廷は大騒ぎで、事の顛末は、嘘もきっと本当の事も混じりあって、幼い下官の私の耳にも入ってきた。
 矢胴丸副隊長は、もう帰ってこない。
 もう月に一度の読書会も、開かれない。
 それでも私は、本を抱えて、空になった矢胴丸副隊長の私室を訪れては、その無人を再確認していた。
「七緒ちゃん」
 部屋の前で佇んでいた私に声をかけたのは、京楽隊長だった。
 京楽隊長は隣に、髪の長い、綺麗な人を連れていた。隊長が綺麗な女の人を連れて歩いているのはよく見たが、今日の人は初めて見た。
「へぇ、君が春水ちゃんのところの一番若い子?」
「そう、伊勢七緒ちゃんっていうの。カワイイでしょ」
「ふふ、可愛いねぇ」
 可愛い、と言われて驚く。声が低い。この人、男の人だ。
 その綺麗な人は、身を屈めて私に視線を合わせた。
「こんばんは、伊勢七緒ちゃん。僕、高遠満流」
 ちょっと、満流ちゃん、と隊長の焦った声がしたが、私は高遠さんの差し出された右手を握り返した。
「八番隊、伊勢七緒と申します。……八番隊の方ですか?すみません、まだ皆さん覚えきれていなくて」
 見覚えはない。しかし死覇装を着て、隊長と親しげに話す姿からは、それ以外考えられなかった。勿論白い羽織も副官章も付けていないから隊長格の誰かということはないだろう。
「八番隊じゃないよ、心配しないで。それよりそんなに分厚い本を持ってどうしたの?」
「……矢胴丸副隊長と、本を読む約束をしていたんです」
 俯いてしまった私の上で、京楽隊長が説明をする。この子、彼女と月に一度読書会をしていたんだよ、と。
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