第1章 一、初空
有言実行。
この人はまた,家族のために,その身を投げ出すのだろう。
今年も,来年も。その次の年も。
僕はそんな人の隣で,何ができるのだろうか。
強くなって。
強くなって,この人を守りたい。
そう思うことは許されるのだろうか。
「……思うだけなら,自由ですよね」
「え?なに?」
何でもありません,と悟は空を見上げる。
薄い雲が切れて流れる。
美しい夜明けだった。
その美しさに,神々しさに免じて,今日だけはそう願い誓うことを許してほしい。
強くなりたい。
強くなって,この人を守りたい。
「ああほら,日が昇る」
満流が東を真っ直ぐに指した。
その細い指の先,遠い地平線が,ぐんぐん明るさを増していく。
堪え切れずに,溢れるように。
そしてとうとう,矢のように光が射し込んだ。
悟は黙ってその景色を見ていた。満流もしばらく,そうしていた。
やがて満流は,ぱんぱんと大きな音を立てて柏手を打つ。
「みんなが健やかでありますように!」
むん,と気合を入れて満流は拝んでいる。
満流が目を閉じているその隙ならば,満流が望まない思いも願って良い気がした。悟も真似て両手を二度,音高く叩き合わせる。
「強くなれますように!」
満流を守れますように。
満流が驚いてこちらを見る気配がしたが,悟は振り向かなかった。言外の願いは満流に聞こえてしまっているだろうけれど,悟はただ目を射る初日の出から顔を反らさなかった。
「……ありがとう」
ありがとう,でもいいんだよ。
満流の言外の思いも,聞かないふりをした。