第8章 二十、宵宮
踊る、踊る、くるくると舞う。
飾り刀が宙を割く。
「え、僕が踊るの?」
「そう、僕と」
うへえ、と満流は嫌な顔をした。京楽は何が楽しいのかにこにこと笑んでいる。
「本当は僕が当番なんだけど、誰も君の舞を見たことが無いって言うから、折角だし二人舞でもしようかと思って」
「そりゃあここ暫く舞ってないもん、見たことが無いでしょうよ。なんだよ急に。他に理由があるんだろう?」
えへへ、と京楽は脂下がる。
「いやあ、最近茶屋のお宮ちゃんと仲が良くてね。今度僕が踊る番だって言ったら是非見てみたいって。だからちょっと今回は気合入れて頑張っちゃおうかなーなんて」
「へぇ。茶屋だなんて、珍しいところ行くじゃない。飲み屋じゃなくて?」
「可愛い子がいるって聞いたもんだから、わざわざ行ってきたのよ」
それがもう可愛くって可愛くって、と、お宮とやらの容姿を褒め称え始めようとする京楽を掌一つで遮って、満流は半眼を向ける。
「そんなことだろうと思った。嫌だよ面倒くさい」
「もうみんなに満流と踊るって言っちゃったからね」
「え! みんなって誰だよ」
「みんなはみんなだよ。ほのかちゃんなんて目をきらきらさせて、楽しみにしてます! なんて」
「えええ、ほのかちゃんが楽しみにしてるの……」
狡いな、断れないじゃない。満流はそう言うと頭を抱えた。
ととと、と足踏み。
たたん、と跳ねる。
踊る、踊る、くるくると舞う。
飾り刀が宙を割く。
すっかり夜も更け、祭りの提灯と篝火、そして満月を明かりとして、京楽と満流はどんどん踊る。
速く、かと思えば遅く。高く、そして低く。
揃いの面の下で、京楽と満流は目を合わせて笑う。
「いいね。満流ちゃん、ノリノリじゃない」
「やると決めたからには本気出すよ、僕は」
「そういうところ好きよ、ほい」
「お前に好かれてもな、はい」
飾り刀を投げ渡し合い、掴んだ瞬間刃を重ねる。豪奢な衣装の袂が靡く。
「さて、クライマックスだ」
「うかうかするなよ、置いていくからな」
「そんなこと言わないで」
御囃子が一層熱気を高める。二人で合わせて舞台を踏み鳴らす。宵宮の空に歓声が上がる。
明日は祭りの始まりだ。
踊る、踊る、くるくると舞う。
熱狂は最高潮に達していた。