第1章 娼婦
「・・・っ」
悔しそうに歯ぎしりするオーナーの顔が視界の隅に見える。
確かに上級貴族である彼の気を損ねたオーナーにも落ち度があるのかもしれないが、それにしても、百万ドルなんて。
いくらなんでも度が過ぎる。
というか・・・そういえば。
私、この人の名前、聞いていないや。
聞こうか迷ったが、それはあとでもできることだろうし、今はオーナーの方が気がかり。
なんだかんだで身寄りのない私を住まわせてくれた恩もあるし、なんとか口添えできないだろうか。
もし、今私が口を挟んだことで事態を悪化させ、私の首が刎ねるようなことがあれば、まぁそれでもいいかな、と思う。
私は、死ぬために生きているのだから。
未練はない。
というより、未練という感情そのものがないのだが。
「あの、その額もう少し減らせませんか?」
「ん?」
彼の水晶のように透き通る瞳が私を捉える。
「百万$を支出してしまったら、この店は潰れてしまいます」
彼はじっと私の瞳を見つめていたが、ふと視線をそらして、回りに控えていた兵士を呼んだ。