第8章 Testimony
岡田からの連絡を、ただ待つだけの、もどかしく虚しい時間だけが過ぎて行った。
俺は部屋の片隅で、スマホだけをギュッと握り締めていた。
漸く岡田から、”侑李”との約束を取り付けたと連絡が入ったのは、二日後のことだった。
俺はたった二日で伸びてしまった不精髭を剃り落とし、シャワーで全身の穢れを洗い流した。
真新しいシャツと、智君と一緒に選んだスーツを身に纏い、特別な時にしか使うことのないネクタイを締めた。
最期に腕時計を左手首に嵌め、無数に刻まれたその文字盤にそっと唇を寄せる。
俺に勇気を下さい…
いつの間にか習慣化されたその行為が、今では俺の心の拠り所になっていた。
「行ってくる…」
事件の資料がぎっしりと詰まった鞄を手に、俺は部屋を出た。
最寄りの駅までの道すがら、コンビニに立ち寄り、パンと牛乳を買う。
それを駅のホームのベンチに座り、無心で頬張る。
まるで恒例行事のように、いつの間にか当たり前になってしまった俺の朝。
こんな日々がいつまで続くんだろうか…
そして俺は…
いつまで智君のために戦い続けるのだろう…
途方もない想いに突き動かされるように、俺は満員電車に乗り込んだ。