第6章 Alibi
「実はな、櫻井…」
暫くの沈黙の後、岡田が口を開いた。
「お前、”侑李”って奴知ってるか?」
”侑李”
「あぁ、確か施設で一緒だった…」
智君に聞いたことがある。
弟みたいに可愛がってる子がいると。
その子の名前が確か”侑李”だったような…
「で、その”侑李”がどうしたって?」
俺の問いかけに、岡田が一つ咳払いをする。
「大野さぁ、その”侑李”って奴と連絡取り合ってたみたいなんだよな?」
「そう、なんだ…?」
俺の知らない事実。
「その様子じゃお前も知らなかったみたいだな?」
「そりゃそうだろ? いくら恋人関係とは言っても、智君の交友関係まで全て把握してるわけじゃないよ」
そうだ、
俺は何も知っちゃいないんだ。
智君のことを何も…
「大丈夫か、櫻井?」
「…ん? あぁ、で、その”侑李”がどうしたって?」
俺を気遣い声を曇らせる岡田に、平然を装って答える。
「あぁ、会ってみないか? その”侑李”に」
”侑李に会う”
その言葉に俺は俯いていた顔を上げた。
上手くすれば何か…
手掛かりになるような証言が得られるかもしれない。
「会ってみたい、”侑李”に…」
「決まりだな」
岡田の声が心なしか弾む。
「俺の方から連絡とってみるから、近々会いに行ってみようぜ?」
「あぁ、頼むよ…」
電話を切り、再び窓の外に視線を向ける。
どこまでも続く青い空を、君も見ているだろうか?
「Alibi」完