第36章 Hope
その日の朝…
俺は母さんが事前に用意してくれた紺のスーツを着込んだ。
母さんの話ではネクタイも揃えておいてくれたらしいが、恐らくは認められなかったんだろうな。
自殺…なんて考えやしないのに…
鏡の前で乱れた髪を手櫛で整える。
前もって床屋に行っといて正解だったな。
いくらこんな場所にいるからって、みっともない姿で智君の前に立ちたくはないからな…。
全ての準備を整えた俺は、あの写真を手に取った。
こんな形で君と会うことになるなんて…、君にしてみれば想定外のことだったとは思うけど…
でもね、どんな形にせよ、君に会えると思ったら、自然に胸が踊るんだ。
こんな状態なのにさ、俺おかしいだろ?
笑っちゃうだろ?
って、君のことだから、きっと泣いちゃうのかな…
俺は一つ息を吐き出して、写真をまた小説の間に挟んだ。
その時、カツーン、カツーンと廊下の向こうかいくつかの足音が響き、やがてそれは俺のすぐ目の前の鉄扉の前で止まった。
カチャンと解錠の音が響き、鈍い音を鳴らしながら鉄扉が開かれる。
「出なさい」
「はい」
スーツと一緒に差し入れられた革靴を履き、舎房を出る。
すかさず前後左右を取り囲む看守に溜息を覚えるが、それも仕方が無い。
「進め」
看守に着いて足を一歩、また一歩と進める。
そして幾つかの鉄柵を抜けた時、俺の両手首に手錠がかけられた。
その瞬間、俺は思ったんだ。
会える…
智君、君に会える。
不謹慎だけど、そう思ったんだ。
『Hope』〜完〜