第35章 shrieking
翔が掴まったらしい、と聞かされたのは、岡田が尋ねてきてから何日か経った頃だった。
「何でっ…、どうして翔が…!」
俺は看護婦やら刑務官やらが制止するのも構わず、井ノ原に掴みかかった。
「俺にも詳しいことは…まだ分からんのだよ…」
「分かんねぇって…、っんだよ、それっ!」
「だから、俺にも…」
「何でだよ…、何で翔が捕まんなきゃなんねぇんだよ…」
今にも殴り掛かる勢いの俺に、流石の井ノ原も困り果てたのか、刑務官に合図をすると、取り乱す俺を二人がかりでベッドに括り付けた。
そしてすかさず看護師が俺のシャツの袖を捲り上げると、そこに注射針が突き立てられた。
「ごめんな、大野…」
井ノ原の困り顔が一瞬で泣き顔に変わった。
「岡田は…? 岡田…呼んでくれよ…」
岡田なら何か知っているのかもしれない…いや、絶対に知ってる筈だ。
岡田なら…
「…分かった。分かったから、今は堪えろ…」
「翔…、しょ…ぉ…」
遠くなる意識の中で、俺は何度も翔の名を呼び続けた。
翔…
どうして…
理由なんて聞かなくたって大体想像がつく。
俺のためだ。
俺のためにアイツは…
岡田が携えて来た手紙を見た瞬間から、ずっと嫌な予感はしてたんだ。
馬鹿な真似をしなきゃいいって…
ずっとそれだけを願ってた…
なのに…、翔、何でだよ…
両手両足をベッドの柵に拘束され、流れ続ける涙を拭うことすら許されないまま、俺は僅かに残っていた意識の糸を手放した。