第30章 Suspicion
父さんの言葉が現実となったのは、それから間もなくのことだった。
「クソッ…!」
森田が留置されている筈の警察署に出向いた岡田が、苛立った様子でデスクに鞄を叩き付けた。
「どう…した?」
長い付き合いの中で、岡田がこれ程感情を顕にすることなんて、俺は一度だって見たことがない。
「どうもこうもありませんよ…」
怒りで震える岡田に代わって、同行していた深山さんが口を開いた。
「森田の奴、拘置所に移されたみたいで…」
「会えなかった…ってこと…?」
そんな馬鹿な…
前科のある森田だから、簡単に保釈…なんてことはないと思っていたけど…まさか…
つい先日の話では、勾留期間の延長申請が出されたと聞いていたのに…
「検察側には? 何か知ってるんじゃないのか?」
移管されるくらいだ、当然起訴内容は検察側だって把握している筈。
「勿論問い合わせたさ。でも知らぬ存ぜぬの一点張りで、相手にもしちゃくれなかったさ」
呆れたと言わんばかりに、岡田が空になった煙草の箱をクシャりと潰した。
「そんな…」
ここまで来て足踏みをさせられるなんて…
思ってもいなかった。
「とりあえず、もう少し検察側に掛け合ってみますね? 検察側の人間に顔の効く上司もいることですし」
「ああ、頼むよ。俺達も何とか手を尽くしてみるから」
とは言うものの、深山さんが所属する斑目法律事務所と違って、こんなちっぽけな事務所では、手の尽くしようがないのだけれど…